読んだ本「解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯」
18世紀英国の、近代外科学の父と呼ばれる外科医、ジョン・ハンターの評伝。
ジョン・ハンターは当時いまだヒポクラテス以来の非科学的な伝統に縛られていた外科医療に科学的な観察と実験に基づく治療を持ち込んだ偉人であるが、同時に当時流行した死体泥棒ビジネスの中心人物であり、珍奇動物の剥製や奇形や病理標本を始めとする膨大な量の医学・博物学標本のコレクター(そのコレクションは死後、ハンテリアン博物学の収蔵物として引き継がれた。)でもあり、その権威に捕らわれない態度とエキセントリックな性格は多数の熱狂的な支持者と同じくらいの批判者を生み、その生涯は偉人というより畸人という方がしっくりくるものだった。
この評伝には、そういうハンターの先進性や業績を讃えると同時に、畸人たるハンターのおもしろエピソードも満載で、解剖学や医学史に興味がなくとも、変なおっさん好きには堪らない本となっている。例えば、ハンターの有名なエピソードとして淋病の実験の話がある。被験者を見つけることができなかったのか、ハンターは自分自身を実験体に淋病患者から取り出した分泌液を自分の陰茎に注射した。当然、ハンターは淋病に感染したのだが、観測を続けるとやがてそれは梅毒へと症状を変化させた。当時、淋病と梅毒は同じ病と考えられており、ハンターはこの実験結果がそれを裏付けるものであると発表した。現在では勿論淋病と梅毒は異なる感染症であることが判明しており、ハンターの実験は彼が淋病の分泌液を採取した患者が同時に梅毒にも感染していた結果だと考えられている。
他にも当時アイルランドの巨人と騒がれた2m50cm近い身長を持つ大男、チャールズ・バーンの遺体を巡る争奪戦や、巨大過ぎて全身を飾ることができず胴体から上だけを自宅に飾られたキリンの剥製や、歯の移植手術などなど興味深いエピソードは枚挙に暇がない。
上図は僕が最も好きな解剖図譜の一つで1774年に刊行された、ウィリアム・ハンターの"The Anatomy of the Human Gravid Uterus"という医学書に掲載されたものなのだが、実はこの臨月で死亡した女性を実際に解剖したのは著者であるウィリアムではなく、彼の弟で当時まだ兄の助手を務めていたジョン・ハンターなのだそうだ。知らんかったよ。
Wikipedia : John Hunter / ジョン・ハンター
Oct 17, 2008 4:56:12 PM | Permalink
TrackBack
TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/10993/42816547
Listed below are links to weblogs that reference 読んだ本「解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯」:







Comments
この本、もしかしてhugoさんが一回紹介してませんでしたっけ?1年ほど前にネットで紹介記事があり、即購入。めちゃくちゃおもしろかったです。固定法がまだ確立されていなかった時代の解剖ですから、さぞや臭かったと思います(今でも、病理解剖や司法解剖は・・・)。僕自身はホルムアルデヒド(ホルマリン)で目とのどがやられるので解剖実習は苦手だったのですが・・。病理解剖は今でもときどき入りますが、なれとは恐ろしいもので、ただの「物質」として「御遺体」を見るのみです。たぶん、ジョン・ハンターもその「物質」のコレクションにのめりこんだのでしょうね。
Posted by: tarashi | 2008.10.17 08:00 午後
もしかすると、欲しい本として取り上げたことはあるかもしれませんね。
この本によると腐敗を避けるために解剖は冬の間だけ行われたようですが、それでもその匂いは相当なものだったのでしょうね。でも、当時のロンドンは都市自体の衛生状態も酷いもので、奥さんもよく自宅で夜会など開いていたそうですから、当時のロンドンの人たちにとってはそれほど酷い匂いではなかったのかもしれませんね。
Posted by: hugo | 2008.10.18 11:55 午後
have you seen this?: http://PSTCHOART.cgsociety.org/gallery/441551/
Posted by: trevor brown | 2008.10.20 08:06 午後
hugoさん紹介で早速、取り寄せてみました。
梱包材に『お客様以外は開封しないで下さい』と、ご丁寧に注意書きがありまして、母が「ウチの子がエロ本を買った?」と心配だったようです。
中身を見せたら安心してました。
ガ、目次を見て、顔色変わっていました。
隠さなきゃいけないような内容ではなく、興味深い良質な書籍ですのに。。。
同じような系統かな?な蔵書を隠すべきかどうか、友人や恋人(いませんがw)に、読んでいることは話さない方が良いの???と困惑ぎみです。
いつもステキ情報で更新して下さって、ありがとうございます^^
※ゴアムービー好きは知られてますが、ゴアムービーとはどんなものかを、多くの人が知らないみたいです。
Posted by: megA. | 2008.10.21 11:26 午前
Dear trevor brown,
Thank you for the comment.
Is this image 3D-CG? It is wonderful work!
megAさん、こんにちは。
いやいや、こういう本はご両親に隠れてこっそり読むのが乙なものですよ。
密かな愉しみという奴です。
ゴアという言葉は日本ではあまり馴染みないですものね。スプラッター・ムービーとか言えばまだ通じるかもです。
Posted by: Hugo | 2008.10.21 04:02 午後
なるほどなるほど。
こっそり と スプラッタ ですね。
スプラッターと言っておけば理解されますが、危険趣味?があらわになりますw
ちょっと楽しいです(ぉ?
hugoさんに、相談してみて良かったです★
それと、3DCG化された解剖図のリアルさに驚きました。
スケッチをとったヤン・ファン・リムダイクと、エッチング技工士の技が優れていたことも良く分かります。
アドバイスとサイトURLをありがとうございました^^
Posted by: megA. | 2008.10.21 09:44 午後
宮崎事件は遠い過去ですが、あれ以降、日本では血みどろホラー映画は日の目を見なくなって久しいですからねぇ。海外では近年、ブームといって良いぐらいの盛り上がりですけど。
Posted by: Hugo | 2008.10.22 08:22 午後