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2006.10.04

金子光晴×稲垣足穂×田中小実昌 鼎談 その3

前々回前回の続きです。
今回は何故かお化けのお話に・・・・・・

鼎談 A感覚・V感覚

「ぼくは、一人で寝るのはこわいよ。今でも」という金子さんの一言をきっかけに、話は何となくお化け話にすべりこんだ。
稲垣さん、にやりと笑って、膝をのり出した。

稲垣「陸奥の国の人で、京都で永年奉公を勤め、主家の娘をもろうた人がいたんだ。で、いっぺん里帰りをするということになって、国へ帰ったんだがね。帰りが長びいた。ところへ奥さんが迎えにきたわけですよ。まあ、その晩は、久しぶりだてんで、語り明かし、ウトウトっとして、あくる朝、その男が表で顔を洗っていたところ、都から飛脚が来た。で、奥さんが急病で亡くなったという知らせである。冗談いうな、本人は奥で寝てるじゃないかといってね、寝間へ案内してみたら夜具がペシャンコになっている。びっくりして、ぱっとめくってみたら、卒塔婆が入っててね、まん中からちょっと下方にフシ穴があいていた(哄笑)。」
田中「いや、よくできてますねえ、これは。」
金子「戦争のあと、しばらく、若い連中がお化けをこわがったけれど、最近はまた事情がちがってきてますか。」
田中「今はお化けも出にくい世の中ですからねぇ。考えてみれば、両先生はじめ、ここにいる者はお化けみていなものですが・・・・・・。」
稲垣「たいしたお化けはいないけどもね。お化けは、いつも、どっかに出てると思うな、ぼくは。その点は今も昔もちっとも変わっちゃいない。ただ、みんなが鈍感になっているだけなんだ。
だから、ぼくは生きても死んでもおんなじことだ、と思っているんですよ。『時間』なんて、あるのかないのかわからないんですよ。」
田中「人の死んだのは見てるけど、自分の死なんて見ることができない。」
金子「西洋のドラキュラとか、あんものはちっとも怖くない、人を食ったりするやつは。あんなこと、われわれでも出来そうな気がするよ。」
稲垣「あれは”死体”のイメージやね。子供がゲラゲラ笑うのは、そのイメージが漫画に見えるからや。」
金子「人形はこわい。昔、文楽の人形で仁木弾正でえのが、ぼくんとこにあったんだが、これを置いた周囲にゃ海鼠色の靄が立っていて、そばへ寄るとからだが尻から溶けていきそうな・・・・・・変なセキシャルなこわさなんだ。田舎の日本旅館なんかもこわいねぇ。」
稲垣「うん、情緒を伴うているからね。今、出ないのはつまり情報が多すぎるからですよ。」
金子「昔は、近親が死ぬと必ず知らせがくると信じてる人が多かった。天井に物音がするとか、門口のベルが鳴ったとか。ぼくの友だちには、久しぶりに朝魔羅が立ったんで、変だナと思ったら、妾が死んだてぇ知らせがきたてえのもいる。」
田中「ぼくんちはね、寝てるときは電話に出ないんですよ。ぼくの部屋にあるのも、夜は下に切り替えといて、出ないんです。ところがある日、切り替えるのを忘れてね、リーンと鳴ったんでしょうがねぇから起きたの。そしたら、おふくろが死んだってんだ。それにね、これも妙な話なんですが、ぼくの知人で歌舞伎町のまん中に住んでいるのがいるの。ええ、飲み屋の三階でしてね。松野ミーコてんですが、その人間は。そこにお化けが出るんですが、これが部分品のお化けなんだ。手だけとか、足だけとか、パーツだけ(笑)。」
金子「○○○○だけてぇのは出ませんかネ。」
田中「そういう重宝なのは出ない(笑)。」
金子「いやね、昔、サトウ・ハチローが見てるんだ。あそこだけが、ジワジワって出てくるんだって。こわかったっていってしましたねぇ(笑)。」
稲垣「妙なお化けがいるものですね。尻だけってのなら、話はわかるが(哄笑)。」
金子「平安期じゃ藤原の師輔が夜道で百鬼夜行に出会うてえ話があるが、あれはだいたい九十九神で、日用品の人間に対する怨念なんだそうだ。ぼくの場合、便所に座ってると、下から手が出てきそうな気がしたことがしばしばあったけど、誰でもそうかな。」
稲垣「子供のころには、よくありますね。」
田中「泳いでたら、カッパに睾丸を抜かれたとか、ね。」
金子「便所なんか、食ったものの怨念がたまってるんだってね。貘さんが(山之口貘)琉球バーで便所へいって、「今、何時だろうう」って独り言いったら、下からくさい声で「十二時だ」って答えたんだって(笑)。」
田中「これはお化けじゃないかもしれないけど、形も何もない何かぐにゃぐにゃした壁というか何というか、夢でも見てるような、何か言葉じゃいえねぇようなお化けもありますね。昼間でも見えることがある。やはりお化けかねぇ。」
稲垣「いわゆる素粒子、微粒子の氾濫。全宇宙空間におけるおそれの氾濫です。ぼくは五十六億七千万年後に弥勒菩薩に生まれかわってくることになってるからね、そういうことはよくわかります。」
田中「神さんはどうなります。」
稲垣「そういうのはお茶屋のお女将さんに聞けばよい。」
田中「いや、神様のことです。」
稲垣「さようですか。それはね、人によってちがうが、いろんな見方がありますよ。超えたものを畏敬する念は誰でにでもありますから。しかし、僕は柳田国男や折口信夫なんて、だいっきらいだ。あれはお祭りとまじないの世界ですよ。あれは文化ではあっても、文明じゃあない。だから、大学の先生をはじめとして、日本人には文化人はたくさんいるが、文明人はいない。」
田中「はあはあ」
稲垣「もうひとつ、戦前の話だけども、ある秀才がドイツに派遣された。ところがある夕方、急にねえちゃんが欲しくなって、四、五マイク持って外へ出たんだそうです。そしたら、すばらしいのを見つけて、交渉してみると、六マルクだか、七マルクだっていうんです。ちょっとそれには金が足りないんで、負けろといったんだが、わたしは職業としてやっているんだから、絶対に負けないってんだね、仕方がないのであきらめようとしたら、わきに牛乳瓶がころがってた。
『ちょっと待ってくれ。あんたとはもういつ会えるかわからんから、記念のためにこの瓶にオシッコ入れてくれんか』 と頼んだ。おねえちゃんは、『それはお安いご用だ。ちょっと待ってね』
なんていってね、路地の奥へ姿を隠して、瓶の中へオシッコ入れてくれたというんです。
『いくら?』
『水くさいことはいわないものよ』
とやりとりがあって、その男はオシッコもらって、自分の部屋へ帰ってきたんですね。
そして、わびしい部屋で、ひとり、アルミの鍋にそのオシッコを入れて、アルコールランプであたためて、程よいぬるさになった時、ズボンのボタンを外して、鍋の中へペニスを入れて、いうことにゃ
『これ、ムスコよ、きょうび肉は高い。スープで我慢しろよ』(哄笑)。」
田中「それはしかし、お化けとは関係ないよ(笑)。」

「下駄ばき対談」金子光晴著 現代書館より

まだまだ、まだまだ続きます。

Oct 4, 2006 12:16:11 AM |

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Comments

いやはやあきれかえるくらいに面白い。
最後の稲垣の「お肉とスープ」の話はおいしいです。

Posted by: osa | 2006.10.04 08:16 午前

ぜんぜん、お化けと関係ない単なる艶笑譚なんですけど、思いついたら喋らずにはいられないんでしょうね。
困った酔っ払いです。

Posted by: Hugo | 2006.10.04 01:19 午後

「人を食ったりするやつは我々にもできそう」という金子と「柳田国男や折口信夫なんて、だいっきらい」と断言する足穂。
昨今の作家は矮小化してるなあ、と思わせる豪胆さです。
サトウ・ハチローの見たアソコお化けが気になります。(笑)

Posted by: 藁人 | 2006.10.05 10:51 午後

今の時代、ちょっとアレな発言とかすると坂東眞砂子や、植草一秀みたいに叩かれちゃうからなぁ。(というと一緒にするなと怒られそうですが)

Posted by: Hugo | 2006.10.06 11:37 午前

おもしろい!
つかみから落ちまで見事な流れです。
リアルで聞くともっと面白いんだろうな~。

>情緒があるから怖い
そうそうそう、だから最近のSFXのホラーはぜんぜん怖くない。(びっくりはするけど。へへ…)

>形も何もない何かぐにゃぐにゃした壁というか何というか…
うんうんうん、よくわりますね~。
空気の乱れな様なもの。
それが顔にべしゃ~。
ちょうど昨晩そういう話をしていたので、とても面白かったです。

Posted by: ひす | 2006.10.09 03:28 午後

ひすさん、こんばんは。
>形も何もない何かぐにゃぐにゃした壁というか何というか…
面白そうな話なのに、綺麗にスルーされてる田中小実昌が不憫です。

Posted by: Hugo | 2006.10.10 07:33 午後

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