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2004.09.11

接吻の起源

接吻(キス)というのはよくよく考えると不思議な習慣のように思える。口と口をくっつけてべちゃべちゃと嘗め回すというのは滑稽かつ奇妙だ。
そもそも性的な意味合いで接吻を行うのは人間だけのように思える。犬や猫、あるいは猿などが稀に互いに相手の口を舐めあったりするのを見ることがあるが、其処にセクシャルな意味合いがあるようには見えない。

そもそも人はいつごろから接吻をするようになったのであろうか? 一説によると接吻の起源は旧約聖書のアダムとイブに始まるとされるが、それはあくまで神話・伝承の類で史実ではない。しかし、それは逆に旧約聖書の成立時には既に人は接吻を行っていたという証左でもある。古代ローマでは既に西洋社会で見られるような儀礼的な接吻が行われていたという記録があるし、ホメロスの『オデュッセイア』にも接吻が描かれている。
恐らく接吻は人間の有史以前より連綿と行われてきた行為であり、その歴史はとても古い。

立木鷹志の『接吻の博物誌』という本にはずばり「接吻の起源」という章があって、その中で戦前の社会学者である赤神良譲がまとめたという「接吻の起源10説」というのが紹介されている。

接吻起源10説

1:遺伝説(愛咬説)
祖先のカニバリズムの習慣が遺伝と共に転化したものが接吻であるという説。

2:尊信説
接吻は相手に対する尊敬と信頼の意思を表示するために起こったという説。

3:哺育説
接吻は母親の子供に対する愛撫の情に起源するという説。

4:医療説
イヌイットやネイティブ・アメリカなどに見られるような、病人に口付けすることで病を吸い出そうとして医療行為を起源とする説。

5:嫉妬説
夫が妻の浮気を確認するために、妻の口腔内に舌を入れ酒色の痕跡を味やにおいから調べたことが起源とする説。

6:所有説
自分の所有物であるということを表明するために口をつけたり舐めたりする行為を起源とする説。

7:帰一説
プラトンの『饗宴』に描かれた男性でも女性でもない両性具有者が神により分断され、互いに分断された相手を求める行為が恋なのだという説を起源とするもの。接吻はかつて一つであった相手との再会の喜びから生じたとされる。

8:激情説
人間は感情が激すると本能的に噛み付きたくなる性質があるという説。

9:性欲説
接吻は人間の性欲を満足させるために行われるようになったという説。

10:官能説
人間の器官はそれぞれ官能を持っており口と舌の固有の官能を満足させんがために発生したのが接吻であるという説。

以上の10説であるが、尊信説などは日本のように儀礼的な接吻文化を持たない国でも性的な接吻は行われてきたことを考えると正しいとはいえないし、嫉妬説はいくらなんでもちと無理があるだろう。(この嫉妬説はイタリアに伝わる伝承らしいが、如何にもイタリアという感じだ)

所有説というのはちょっと面白い。日本でも自分の所有であることを表明するさいに「唾をつける」などという。唾液をつける、口をつける、或いは噛み痕を記すというのは古来から所有を示す表明行為とされてきた。人間における性交は対象の支配や征服欲とも関係しており、接吻の起源を其処に求めるというのはなかなか面白い。

遺伝説や哺育説、激情説や性欲説、官能説等は突き詰めて考えれば同じものだといえなくはない。
食欲と性欲は密接な関係があることは良く知られているし、唇や口腔が性感帯であることもそれと無関係ではない。
生来性犯罪者説で有名なロンブローゾや人類学者のデズモンド・モリスは接吻の起源は母親が子供に離乳食や病気などで体力が失われたときに口移しで食べ物を食べさせる行為にあると言っている。硬いものや大きなものが食べられない子供に親が自分で咀嚼したものを食べさせる行為は人間だけではなく他の哺乳類でも見られる行為であるし、また手を持たない鳥類は雛に口移しで餌をやるのが普通である。子に口移しで食べ物を与える行為はとても自然な行為で、性的な接吻がその名残とするのもまた自然な解釈のように思える。
フロイトは自著の中で人間の性的な発達は乳幼児より段階的発達するとし、それを口唇期、肛門期、男根期といった性欲の対象で表した。乳幼児期においては性欲と食欲は未分化で人間がもっとも最初に感ずる性的快楽は母親からの授乳による唇や口腔に対する刺激で、それは生物として生存欲求に直接結びついたものである。やがて、成長と共に性欲の対象は口唇から肛門、やがては性器へと移っていくが、口唇や肛門に対する性的関心は必ずしも全て忘れ去られる訳ではない。関心が薄れたとしても以前として口唇や肛門が依然として性的な器官であることに変わりはないのである。
従って、フロイト的に考えるならば接吻というものはかつて乳幼児期に体験した口唇期的な性的欲求に基づくものでいわば必然ともいえる行為といえるだろう。

また、接吻を考えるにおいて人間の唇の特徴的な形状を忘れるわけにもいかない。人間の唇は他の猿と違いべろりと捲りあげられ赤い粘膜部分が常に露出されとても敏感な器官になっている。これは生理学的にも接吻の快楽に有利な形状といえるし、(ヴァギナ・デンタータを持ち出してくるまでもなく)直立し陰毛に隠された性器の代替でもある。

接吻の起源について確定的なことを述べるのは不可能だと思うけれど、人種や文化によらない本能的な欲求の一つなのだろうと思う。そういう意味において、人間が何故接吻するのかという問いは、人間は何故性交したくなるのかという問いと似たようなものなのかもしれないね。

参考:『接吻の博物誌』 立木鷹志 青弓社

Sep 11, 2004 3:22:15 PM |

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Comments

はじめまして。突然ですが,リンクを貼らしてください。(^_^;)

Posted by: sideb1941 | 2005.03.29 07:05 午後

sideb1941さん、はじめまして。
リンクはどうぞご自由に。

Posted by: Hugo | 2005.03.29 07:17 午後

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